今は都内に住んでいる僕だが、幼少期から30歳くらいまではほとんど厚木に住んでいた。
一時的に隣の海老名に住んでいたこともあるが、
それ以外はずっと厚木だ。
そんな厚木時代、引越し先を探していた時の出来事。
僕は安く住めるアパートを探していた。
地元密着型の不動産屋さんを訪れて、
店頭で間取り図を眺めたりし、
見ていても良くわからないから、
店内に入り相談を始める。
そして、
色々とこちらの要望などを伝え、
一つの手頃な物件を出してもらった。
話を聞くと、そんなに悪くなかったので、
ぜひ内見してみたい、と伝えた。
するとこう言われたのだ。
「実は、今他のスタッフが出払っていて、私一人しかいないので、もし内見に行ってもらうとしたら一人で行ってもらうことになるのだが構わないか」
と。
まあ僕としては一人で行った方が気楽だなという気持ちもあったので、
その話に乗ることにした。
「では現地にはお一人でお願いします。この建物の○○○号室です。ドアの横にポストがあって、その中に鍵が入っていますので、それで鍵を開けて内見していただき、終わったらまたポストに鍵を戻してお店にお戻りください」
こんな説明があった。
へー、そんな内見方式もあるんだな、なんてことを思いつつ、
僕は現地に向かった。
ほどなく現地へ。
空き家とはいえ、他人のポストを開けるのはなんとなく気が引けたが、
きちんと鍵もあった。
その鍵を手に取り、ドアを開ける。
すると、、、
ん?
あーーー、なるほど、
と僕は納得した。
当時僕もまだ若く、知識がなかったこともあり、
目の前にある情景を「あー、なるほどそういうことか」と、
そのまま受け入れたのだ。
それはどういう情景だったのか。
まずドアを開けると、左手にキッチンがある。
キッチンのシンクの中には、グラスがあった。
また、コンロにはフライパンが乗っていた。
そして、そのキッチンを通り過ぎると、
今度はリビング、というか1Kなのでもう一部屋があるのだが、
そこには布団が敷かれていて、段ボール箱なども置かれており、
赤いラジカセが置いてあった。
僕はそれらを踏まないように気をつけながら、
一応部屋の中をぐるりと一周し、
窓を開け閉めしたり、電気をつけたり消したりと、
一通りのチェックはした。
押し入れを開けるのははばかられたのでやめておいた。
つまり、この部屋は引越し中で、
ちょうど空いたところに今まさに僕が飛び込もうとしている、という、
そういう構図だと合点したのだ。
これから引っ越していく、前の家主と出くわしてもなんだか気まずいので、
僕はそうそうに退散することにし、
約束通りポストに鍵を戻して、
不動産屋さんに戻った。
「どうでした?」
不動産屋さんに戻るなり、そんなことを聞かれたので、
「いや、まあそうですね、いいお部屋だと思いますよ」
なんてことを答えた。
するとこう聞かれたのだ。
「で、どうしますか?決めますか?」
正直僕はそこでも良かったのだが、やはりまだ荷物があるというのもあり、
一応確認したかったのできいてみた。
「まあ、いいんですけど、いつから入居できるんですか?」
と。
すると驚くことにこう聞かれたのだ。
「まあ、すぐにでも」
すぐ?
いやすぐっていうのはまあ1週間後とか、人によって幅があるかもな、と思ったので
さらに確認した。
「でもまだ荷物もありましたし、お引越しいつごろ終わるんですか?」
と。
すると、
「は?」
いや、は?じゃなくって。
だって、まだ荷物あったんだから。
僕は目にした状況をそのまま伝えた。
するとこんなことを聞かれたのだ。
「中野さん、何号室に行ったんですか?」
「だから、○○○号室です。教えてもらった通り、ポストに入ってた鍵で中に入れました」
「え、、、、私が案内したのは、△△△号室です、、、」
え?
話を整理すると、どうもこういうことなのだ。
不動産屋さんが間違えたのか、僕が間違えたのかは定かではないが、
とにかく僕は違う部屋に行ってしまったのだ。
そして、その部屋の家主は、何かの理由でたまたまポストに鍵を入れていた。
僕は、それを発見し、そのまま家の中に入り、
生活感がそのままの部屋に入ってしまったのだ。
言ってみれば空き巣だ。
ダンボール箱があった理由はわからないが、
単にその家主がズボラなだけかもしれない。
それを見て僕は、
「引っ越しの最中だ」と誤解してしまったのだ。
そこに家主が帰ってきたら、僕は空き巣容疑で捕まっていたことだろう。
もちろんそこに引っ越すのはやめておいた。