ネストと呼ばれるライブハウスがある。
正式にはO-nest。
もっと正式にはSpotify O-nestというらしい。
このライブハウスは、渋谷のOグループというところがやってるライブハウスで、
むかしむかしはON AIRと呼ばれた有名なライブハウスで、
その近くにあったON AIR WESTというライブハウスの名前を聞いたことがある方も多いと思う。
そしてその近くには渋谷nestというライブハウスがあり、
これが後々にO-nestという名前に変更された。
ON AIR WESTもO-WESTという名前になっている。
ON AIRはO-EASTといった具合だ。
実は遠い遠い昔、何かのご縁でこのnestに出演させてもらったことがある。
当時は、じゅんじゅんというギターの弾き語りが非常に上手いやつと一緒に、
確か「spoon」というユニットを組んでいたと思う。
このspoonというユニット名は、
僕が当時つけていた腕時計に由来する。
ユニット名の候補としては他にも、
「島国根性」
などがあった。
いずれにしても、大した意味はない。
ユニット名なんかに大した意味を持たせない、
という反骨精神の表れだったのかもしれない。
そのじゅんじゅんと組んでいたspoonでは
僕はギターとハモリ、時々メインボーカルとアルトサックスを担当していた。
「サックス吹けるの?」なんて思われるかもしれないが、
ちゃんと習ったことがあるわけではなく、
当時バイトをしていたファミマのバイト仲間から安く譲ってもらったものを、
我流で吹いていただけなので、
全くもって実力はない。
けど、
当時は駅前にはストリートミュージシャンが溢れていて、
僕たちもその中の一ユニットだったのだが、
サックスを吹いてるユニットというのはいなかったので、
ちょっとだけ注目してもらえることもあった。
ストリートミュージシャンについて扱った深夜のテレビ番組、
確か「ストリート魂」だったか、
あれの撮影なんかもされた気がする。
けど、オンエアを見た記憶はない。
というか、その番組を見たことがなかった。
そんな僕たちspoonがなんかのご縁でnestステージに立った。
僕とじゅんじゅんと、お互いに作ってきたオリジナル曲を、
一緒に演奏するというようなことをした気がする。
2001年か2002年くらいのことだったと思うのだが、
記録もなければ記憶も曖昧。
ただ、そこに出演したということは間違いない。
無知な僕でも有名ライブハウスであることくらいはわかっていたので、
かなり舞い上がっていたのだ。
割と大きなイベントだったと記憶している。
だから、お客さんもそれなりに多かった。
そんな中で、僕たちは良い演奏ができたかというと、
まあ、いつも通りの演奏だったであろう。
演奏について特に記憶がない。
そのライブの内容は全然覚えていないのにも関わらず、
なぜかそのライブ中の出来事で記憶に残っていることが二つだけある。
一つは、
mcでじゅんじゅんが、
「僕たちについて、なにか聞きたいことはありますか?」
という無茶振りを聴衆に送ったのだ。
当然、聞きたいことなんて誰もない。
でも、かわいそうだと思ったのだろう。
一人の女性が手を挙げてくれた。
「なんで、spoonっていう名前なんですか?」
無言でこちらを見るじゅんじゅん。
舞い上がった僕はなぜか、
「それは言えません」
と返答した。
ひどい空気になった。
という記憶。
もう一つはその時に出ていた友達のパンクバンド。
バンド名は確か、
「ブロッケンマニア」か「爆撃機」のどちらか。
元々はブロッケンマニアで、のちに爆撃機に変わったのだが、
そのnestのライブの時にどっちだったかは覚えていない。
そのバンドはかなりぶっ飛んでて、
F#のコードをかき鳴らしながらずっと「F#」と叫び続ける「F#」という曲や、
サビの歌詞がずっと「テキサスビーフ」の「テキサスビーフ」という曲や、
ちょっと本当に書けないような歌詞の曲など、
僕は結構好きなバンドだった。
そのバンドのボーカルがマルというのだが、
そのnestでのライブ中、頻繁にステージ袖に行く。
そして、全く使わないマイクスタンドをステージ中央に置く。
nestのスタッフがそれを回収し、ステージ袖に持って帰る。
するとマルがまたステージ袖からマイクスタンドを持ってくる。
使いもしないのに。
持ってきて放置。
またスタッフが回収する。
また持ってくる。
マルはライブ中、ずっとそんなことを繰り返していた。
かっこいいと思った。
その二つが、僕の記憶に残っている、
人生で一度きりの渋谷nestでのライブ中の出来事だ。
そんなものなのだ。