卓球には「ハイドサーブ」という言葉がある。
これは反則行為だ。
どういう反則行為かというと、
サーブを出す際に相手から打球点が隠れている(厳密にいうと違うが)状態のことを
ハイドサーブという。
卓球というのは非常に回転の影響を大きく受けるスポーツで、
特にサーブには強烈な回転がかかっている。
レシーブをする際にはそのサーブの回転の方向や量がわかっていないと、
正面に向かって打ってるのにボールが真下に落ちたり真上に飛んだり、
右へ左へとすっ飛んでいく、ということが当たり前に起きる。
そして、そのサーブの回転の方向や量を見定める重要な要素の一つが打球点なのだ。
つまり、ここが見えないと回転の予測がものすごくつきづらくなる。
昔のルールでは打球点は隠れていても良かったのだが、
今のルールではそれは禁止されている。
つまり、ハイドサーブが猛威を振るったからだ。
これはどんなスポーツでもそうだろう。
あまりにも一方的な試合になってしまうような技術というのは、
ルールにより規制が入るものだ。
水泳なんかを見ているとわかると思う。
卓球のサーブはかなりルールが多い。
そしてそれを正確に把握している人は少ない。
まず、サーブの前は静止しなければいけない。
なので、いきなりサーブを出す、とかは違反。
そしてその静止時には、フリーハンド(ラケットを持っていない手)の、
手のひらの上のボールを乗せ、指で回転をかけられない状態を作らなければいけない。
よく、指が丸まってはいけないとか言う人がいるが、
ルール上では「手のひらの上でボールが自由に転がる状態」としか書いていないので、
指の伸ばし具合については実は言及がない。
が、自由に転がる状態というのは手のひらが平らな状態を意味するので、
自然と指は伸びるだろう。
そしてそのボールに回転を与えることなく、16センチ以上、ほぼ垂直に投げ上げる。
この辺りから厄介になってくる。
16センチというのはだいたいネットの高さなのだが、
実は思っているよりも結構低い。
卓球をする人の中では「上がっていない」という言葉が使われる。
これはその16センチを満たしていないことに対する指摘として使われる言葉なのだが、
客観的に見ると結構上がっていることが多い。
さらに、ボールを上げたあと、フリーハンドがついていって、
フリーハンドとの距離が16センチ以上開いていないことについて、
「手がついていってるから上がっていない」
という指摘をする人もいるが、実はこれも違う。
ルールブックにはどこにも「手のひらからの距離が16センチ以上離れなければいけない」とは書いていない。
「手のひらから離れた『後』16センチ以上上昇し」と書いてある。
つまり、手のひらからボールが離れた瞬間からボールが垂直方向に16センチ以上上昇していれば良いわけであって、
フリーハンドがそこに追従しているかどうかは問題ではない。
そしてここにもう一つ厄介な(そしてよく指摘される)ルールがある。
それが「ほぼ垂直」というルール。
繰り返すがサーブでボールを投げ上げる(トスと呼ぶ)ことについてのルールは、
「ボールに回転を与えることなく、16センチ以上、ほぼ垂直に投げ上げる。」
だ。
ほぼ。
この「ほぼ」が人によってかなり差がある。
そりゃそうだ、ほぼなんて言ってるのだから。
ネット上で、東京選手権という全国規模の大会の公式審判員のジャッジが話題になったことがある。
ほとんどのプレーヤーから客観的に見て、そのトスは「ほぼ垂直」なのだ。
ほぼどころかもうほとんど垂直。
だが、審判はそれに対してフォルト(反則)を取る。
「まっすぐ上げてください」
と。
国際大会の動画なんかを見ると、
垂直に上げている人の方が少ない。
審判のジャッジの基準として、
トスが45度以上それなければそれはほぼ垂直とみなす、
というような不文律がある、という話も聞いたことがあるが、
それは噂レベルなのかどうかのか、僕にもわからない。
なにしろルールにはそうは書かれていない。
むしろ書いてしまった方がプレーヤーも審判も楽だと思うのだが。
そして、なぜ「ほぼ垂直」にトスを上げなくてはいけないのかというと、
それがハイドサーブの原因になってしまうからなんだと考えられる。
が、ハイドサーブはこのあと書くように、
他のルール条項でも規制されている。
なので、トスを垂直にさせることでハイドサーブを防ぐというのは、
あまり効果的じゃないように思うし、
何よりその部分をぎちぎちにしていくと卓球が面白く無くなるのではないか、と思う。
話を戻す。
静止し、フリーハンドの手のひらにボールを置き、それをほぼ垂直に16センチ以上投げ上げる。
そのあと、ボールが落下しているところを打球しなければいけない。
つまり、上昇中を打ってはいけない。
そして、
サーブが開始されてから打球されるまで、
ボールは常に台より上、かつ台より後ろになければいけない。
時々、台の中からボールをトスする人や、トスの際に投げ上げる準備でフリーハンドが台の下に行ってしまう人がいるが、
これは違反。
また、サーブの打球が台の中になってしまっても違反。
まあ、このあたりは常識。
そして、ここからがハイドサーブ禁止ルールの真骨頂。
まず、ボールがトスされてから打球されるまでの間、
「サーバーまたはダブルスのパートナーの体の一部または着用している物で、ボールをレシーバーから隠してはならない。(原文ママ)」
というルールだ。
平たくいうと、ボールを投げてから打つまでの間、ずっとボールはレシーバーから見えていないといけないよ、ということだ。
よく、打つ瞬間が見えていればそれでいい、と勘違いしている人がいるのだが、
実はそうではなくて、ボールはずっと見えていなければいけないのだ。
が、
国際試合の動画を見ていると、
ほとんどのサーブのは落下中に顔の後ろを通る。
僕のサーブもそうなってると思う。
これを厳密にジャッジされたら、みんなまともにサーブを出せなくなるだろう。
いっとき、国際試合でサーブ違反のカメラ判定が導入されたのだが、
このルールの部分でかなりのフォルト(違反)が量産された。
これがどんな結果を招いたのかまで僕は把握していないが、
おそらくまともに試合にならなくなるだろう。
さらに問題は、
「レシーバーから隠してはならない」という部分だ。
これはレシーバーの立ち位置に依存する。
まず審判の位置からは間違いなくそのジャッジはできない。
審判は台の真ん中ら辺の両サイドにいるわけだから、
レシーバーからボールが隠れたかどうかなんて分かりようがない。
(だからこそ、ほぼ垂直に条項があるのだろうが)
そして、卓球にはレシーバーの構える位置に関するルールはない。台の上に乗っていても構わない。
プレーエリア内にいれば、台から離れていても構わないし、隣の台の近くにいたって構わない。
ということは、そういう位置に立って、
「トスしたあとボールが隠れて見えません」
という状態を意図的に作ることもできる。
バカらしくて誰もやらないが、
ルールとしてはどうなんだろうな、と思う。
静止し、フリーハンドの手のひらにボールを乗せ、回転を与えずにほぼ垂直に16センチ以上ボールを投げ上げ、投げ上げられ始めた瞬間からレシーバーからずっとボールが見える状態にし、落下中を打球しなければいけない。
これがここまでのまとめ。
そしてさらにもう一つのルールがある。
「ボールが手のひらから離れたら、すぐにフリーアームとフリーハンドを、ボールとネットとの間の空間の外に出さなければならない。注釈:ボールとネットとの間の空間とは、ボールとネットを支える支柱とで作られる面を、さらに上方に延長して作られる空間をいう(原文ママ)」
というルール。
文章だけ見るとなんじゃそりゃってことなのだが、
とにかく「ボールをトスしたらトスした手と腕をさっさとどけなさい」ということだ。
そしてどこからどけるのかというと、
ボールとネット支柱を結んだ三角形の外にどけろ、ということなのだ。
これは何が言いたいのか。
つまり、ボールや打球点を隠してしまいそうな位置に、
フリーハンドを置いといちゃダメだよ、
ということなのだ。
だがこれも問題がある。
まず「すぐにどける」の「すぐ」がどれくらいすぐなのかというルール規定がないので、
審判判断に委ねられるということ。
そして、
その三角形の空間からフリーハンドがどけられたかどうかの判定は、
審判の位置からではほぼ不可能であろうということ。
卓球のサーブのルールというのは、
プレーヤーにも審判にも優しくないのだ。
静止し、フリーハンドの手のひらにボールを乗せ、回転を与えずにほぼ垂直に16センチ以上ボールを投げ上げ、投げ上げられ始めた瞬間からレシーバーからずっとボールが見える状態にし、投げ上げたらすぐにフリーハンドをどけて、落下中を打球しなければいけない。
これが卓球のサーブのルールの全貌である。
ものすごくややこしく、
かつ審判の位置から正確なジャッジが困難なルールになっていることがわかると思う。
そして、
とにかくハイドサーブにならないようにルールが作られているのが分かる。
このルールについて、きちんと正確に把握できていない人も、
結構多いんじゃないかと思う。
特に、
・トスの際にフリーハンドがついていってはいけない、という規定はない
・打球点だけでなく、打球されるまでずっとボールが隠れてはいけない
というあたりは説明すると「知らなかった」という人が多かったりする。
ローカルな試合だと、審判長でもそれをわかってなかったりする。
だけどルールブックに全部書いてある。
スポーツには全てルールがあるので、
プレーをするならば一度ルールブックに目を通すと良いと思う。
でも卓球、とくにハイドサーブについては、
これらのルールを全て把握していても、
審判からその判断が難しい状態になっている、
というのがミソなのだ。