似合わない、とかよく言われるのだけど、
実はジャズが一番好きだ。
これは父親の影響が強く、
僕が幼い頃、父はよくレコードをかけていた。
ジャズだけというわけではなかったのだけど、
R&Bだったり、ソウルだったり、いわゆるそういう音楽。
そういうレコードがよく回っていたので、
自然と耳に馴染んでいたのだと思う。
自分が音楽をやろうと思ったのは、
ラルクやルナシーの影響だった。
いわゆるビジュアル系のコピーバンドを組むようになり、
そのうちオリジナル曲を書こう、なんてことになってくる。
その頃はちょっとクラシック、バロック寄りの音を作れたら、
なんていうことを考えていたので、
自然とピアノ音楽を聴くようになった。
父のレコードの中に何か手頃なものがないかと思い、
たまたま聴き始めたのがキースジャレットのケルンコンサートだった。
そのジャンルレスな音楽に僕は魅了され、
そこからは能動的にジャズを聴くようになった。
キースジャレットからマイルスデイヴィスに。
マイルスディヴィスからビルエヴァンスに。
そこからは様々なミュージシャンをむさぼるように聴くようになった。
一番多かった頃で、
レコードで500枚、CDで300枚くらいを所有していたと思う。
金欠の時にレコードはほとんど売ってしまったが。
たくさん持っていても、
繰り返し聴くアルバムというのは不思議と限られてくる。
その中の一枚が、
ビルエヴァンスのワルツフォーデビーだ。
ヴィレッジヴァンガードという小さなジャズクラブでの演奏を収録したアルバムだ。
表題曲であるワルツフォーデビーの素晴らしさもさることながら、
このアルバムの凄みはやはり、
一曲目のマイフーリッシュハートにあると思う。
ミ・ミ〜
と単音でピアノが鳴り、
ドゥーンと静かなウッドベースが入り、
シズルののったシンバルが静かに舞い降りてくる。
ヴィレッジヴァンガードの店内のざわざわとした会話が心地よいノイズとなり、
その1秒くらいの音の情報だけで、一気に世界を持っていかれるのだ。
ジャズのアルバムは本当にいろいろあるけれど、
こんなふうに世界を持っていってしまうアルバム、そして一曲目として、
これ以上のものはないんじゃないかと思う。
もちろんその後の演奏内容にもすごみがある。
ビルエヴァンスは、この一曲の間アドリブらしいアドリブをほとんど弾かない。
ジャズといえば、アドリブを聴くもの、みたいに思っていた僕だったが、
時に少しだけ色付けしながら、淡々とメロディーラインを弾いているビルエヴァンスに気がついた時には、
とても驚いた。
あまりに自然で、
気づいていなかったのだ。
歌うようにメロディーを弾くビルエヴァンス。
その後ろで静かに踊るように少しだけフレーズをうねらせるベースのスコットラファロ。
そこに静かに金色銀色を散らすドラムのポールモーシャン。
当日この演奏をヴィレッジヴァンガードで聴いていた人の談によると、
この歴史的かつ奇跡的な演奏をきちんと聴いていた人はほとんどいなかったらしい。
それこそ談笑しながら聴くでもなく聞いている人がほとんど。
そんな中、
時に囁くように、時に丁々発止としたインタープレイを繰り広げながら、
ジャズ界、特にピアノトリオの世界を大きく変えてしまうエポックメイキングなライブをしてしまったこのトリオ。
ビルエヴァンス以降に現れたピアニストでビルエヴァンスの影響を受けていない人はいない、
とまで言わしめているこのピアニスト。
聴いたことがなかったら、
一度でいいからワルツフォーデビーを聴いてみてほしいし、
聴いたことがあっても、
もう一度でいいから集中して一曲目のマイフーリッシュハートを聴いてほしい。
本当に、開始1秒で世界を持っていかれるから。