【ひ】ビリヤード場の話

今までの人生の中で、何人か僕が「兄貴」または「お兄ちゃん」と呼んできた人がいる。

なんとなくこの人は兄貴っぽいな、お兄ちゃんぽいなって思うと、

なんとなく流れでそう呼んできてしまっていた。

 

なので、僕の前に複数の兄貴が存在してしまったこともあり、

そんな時には「兄貴!」なんて呼ぶと、

呼んでない方の兄貴まで振り向いてしまい、

(なんだよお前もこいつから兄貴って呼ばれてるのかよ)

と気まづい雰囲気を作ってしまったこともある。

 

僕が長男で、妹しかいないから、

兄という存在に憧れがあるのだと思う。

 

今でも兄と呼んでいる人が二人いるし、

片方は年下だ。

 

僕が高校を辞めて、ファミマでバイトしながら本厚木の駅前をふらふらする毎日を送っていた頃、

やはり兄貴と呼ばれていた人がいる。

 

その兄貴は、なんと僕よりも背が高い。

僕も182あるのだが、兄貴は185以上あったと思う。

 

しかも堀が深くて、突っ立ってるだけでイケメン。

バスケが得意で、運動神経も良い。

 

さらに素晴らしいことに、歌がド下手。超音痴。聞けたもんじゃない。

 

だからよかったんだな。

 

これで歌までうまかったら、

周りはみんな劣等感に苛まれてしまうことだろう。

 

18くらいの頃、

一時期兄貴のアパートに入り浸って、

夜通しプレステをやっていた時期がある。

 

プレステやったり、寝たりして、

早朝5時くらいになると、そこからなぜか近所のビリヤード場に行く。

 

そこは24時間営業だったか、早朝からやってたか、ちょっと記憶が定かではないが、

なぜかとにかく僕たちは早朝からビリヤード場に行くのだ。

 

そして、みんなで9ボールを始める。

 

だが困ったことに、誰一人としてビリヤードがうまいやつがいないのだ。

 

容姿端麗スポーツ万能歌唱力最悪の兄貴ですら、

ビリヤードも上手くない。

 

ビリヤードが下手なメンバーで9ボールを始めると何が起きるか。

 

永久に終わらないのだ。

 

僕たちは、そんな永久に終わらない9ボールをしながら、

ホットドッグを食べるのだ。

 

そう。

そこにはビリヤードをしにいっていたというよりも、

ホットドッグを食べにいっていた、という方が正しいかもしれない。

 

毎日寝不足のほぼ徹夜明けで、味覚も鈍っていたのかもしれないが、

そのビリヤード場で朝食べるホットドッグが異常にうまいのだ。

 

「おわんねーなー」

とか言いながらホットドッグにかぶりつく。

 

そしてうまくもないセットのコーヒーを飲む。

 

18歳。徹夜明け。早朝。ビリヤード場。ナインボール。ホットドッグ。

 

絵になるだろ?

 

そこに、

185センチ以上ある容姿端麗、スポーツ万能の兄貴。

 

歌ド下手。

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