何を隠そう僕はもともと珈琲屋で働いていた。
というか、父親がコーヒー豆の焙煎職人だったので、
そこで働いていた。
僕も焙煎を教わったので、
一応コーヒー豆の焙煎ができる。
もうだいぶ忘れてしまったけど。
コーヒー豆というのは、
焙煎中に2回はぜる。
はぜるというのは、
ぴちぴちぱちぱちと、破裂音のような音を出すことで、
なんでそうなるのかというと、
熱が加わったコーヒー豆が急激に膨張するからだ。
全然違うけど、
ポップコーンのようなものだと思ってもらうと
わかりやすいかもしれない。
そういう急激に膨張する現象が、
コーヒー豆では2回起きるのだ。
そしてその音、煙の出方、香り、
などで総合的に判断をしながら、
コーヒー豆の焙煎を進めていく。
焙煎をした後は味見をする。
だから僕は、
結構いろんな種類のコーヒー豆を味わってきた。
どこのコーヒーが一番好きかというと、
普段何も考えずに飲むならばブラジルだ。
ブラジルはコーヒー生豆の処理方法が、
他の国とちょっと違う。
ブラジルのすべての豆がそうというわけではないのだが、
一般的にはウォッシュというやり方で処理するのを、
ブラジルではナチュラルというやり方で処理することが多い。
詳しい話は割愛するが、
それにより、ブラジルのコーヒー豆は甘い香りや風味が出やすくなる。
僕は割と味覚がお子ちゃまなので、
甘い香りや甘い味が好きだ。
ではブラジル以外の豆では何が好きかというと、
とにかく特徴の強い豆が好きだ。
それは例えば苦味の強いマンデリンであったり、
コクと酸味が共存したグアテマラであったり。
そういうわかりやすい特徴があるものを好む。
わかりやすくないとわからないからだ。
せっかくなら、
違いのわかる男でいたいのだが、
わからないような違いだとわからないので、
違いがわかるためには、
違いがわかりやすくいてくれないと困るのだ。
コーヒーの中でもかなり個性的なのが、
モカと呼ばれる種類のものだ。
僕がコーヒー豆を焙煎していた頃は、
モカというと大きくわけて二つあり、
イエメンのモカマタリと
エチオピアのモカハラー(ハラリ)だ。
正直に言う。
僕はブラインドの状態だと、
マタリとハラーの違いがわからない。
だが、
モカはモカなのだ。
明らかに他のコーヒー豆とは違う香りや風味がある。
モカは、ちょっと赤ワインっぽかったり、紅茶っぽかったりする。
ものすごく特徴が強いモカだと、
「え、これってコーヒーなの?」
と感じさせるような味がする場合すらある。
僕が焙煎してた頃には、
イエメンのモカマタリはどんどん日本に入りづらくなっていた。
理由はよく知らない。
主流はほとんどエチオピアになっていっていた。
最近は北海道の恵庭というところにあるコーヒー豆屋さんから豆を取り寄せているのだが、
やはりモカはエチオピアだ。
エチオピアはイルガチェフェという名前がついていることが多い。
これは確か村の名前だったと思う。
イルガチェフェは高品質なモカで、
特徴的でありながらクリーンな風味を楽しめる。
赤ワインぽさ、紅茶っぽさに加えて、
柑橘っぽい風味もある。
コーヒーの個性を楽しむなら、
ブレンドではなくストレートの方がいい。
さらに言うならば、
農園の名前がついたものや、
限定された地域の名前がついたもの、
こういったものは、豊かな個性を持っている。
少しでも興味を持ってもらえたら、
ぜひ試してみてほしい。
細かい違いがよくわからない違いがわかる男からのおすすめである。