【ゆ】ゆっきーの話

めちゃくちゃ面白い友だちがいる。

それがゆっきーだ。

 

ゆっきーは広島県出身で、卓球がめちゃくちゃ強い。

どれくらい強いかというと、高校生の時に広島県でシングルス、ダブルス、団体戦の全てで優勝するという、

いわゆる三冠王に輝いている。

その後、大学も強豪校に進んでいる。

 

つまり、僕とは全く別格だ。

 

僕の卓球歴なんか、中学校の3年間をやって、高校で半年もやらずにやめてしまってるので、

もう、よわよわのよわだ。

 

それに比べるとゆっきーは、つよつよのつよだ。

 

そんなゆっきーは、僕と月に1〜2回練習をしてくれる。

練習といっても、なんかほとんど僕が教わっているような状態だ。

「はたしてこれはゆっきーの練習になっているんだろうか」

と思ってしまうこともしばしばある。

 

そんなゆっきーとの練習時の合言葉は「バキ練」だ。

 

この言葉は僕発祥ではなく、たぶんアニキと呼ばれるこれまた面白い卓球プレーヤーがいて、

アニキはいろんなスラングを開発する人なのだが、

おそらく「バキ練」についても、アニキが開発した言葉だと思う。

ちなみに僕がtwitterによく書く「ふぅ…」も、そもそもはアニキの発祥だ。

 

僕とゆっきーが二人で練習をする時にも、

「バキ練じゃーーーー!!!」

とか言いながら練習している。

 

バキ練というのは、実はどういう意味なのか僕自身はよくわかっていない。

 

たぶん、バッキバキに練習する、みたいなことだと思う。

 

ゆっきーといえば、酒をよく飲む人物として著名である。

 

本気を出せば、僕などゆうに超えるレベルで飲むだろう。

つよつよのつよである。

 

のりにのってくると、

缶ビールを永久に買ってきてくれる。

しかも、毎回500の缶である。

 

350缶を買うのが習慣になっている僕は、

実はこっそりそのことにいつも驚いている。

つまり、それだけやる気がみなぎっているということだ。

ビールについてもバキ練なのである。

 

酒についてのエピソードは他にもあるのだが、

どう終始しても「めちゃくちゃ飲んだ」という話になってしまうので

これについてはこの辺にして。

 

いや、本当は酒以外にもゆっきーには語り尽くせないほどの面白エピソードがいっぱいあるのだが。

 

でも、どうしても語りたい話があるのだ。

 

時は今年の3月に遡る。

 

3月といえば、

僕は生まれて初めて東京選手権という大会に出場した。

 

様々な捉え方はあると思うが、

僕としては

「生まれて初めて出場することができた全国大会」

である。

 

だって、ちゃんと東京予選通過して、東京の代表として出場したんだから。

 

その本番の数日前だか前日だかの話。

 

東京選手権は組み合わせとタイムテーブルが事前に出ている。

タイムテーブルというのは、どの試合がいつどの台で行われるのか、が表になったものだ。

 

僕とゆっきーは、1回戦は時間がズレていて、2回戦は同じくらいの時間だった。

 

なので、僕は自分の1回戦のベンチコーチをゆっきーにお願いすることにした。

 

ベンチコーチというのは、試合をする時に後ろに座って、

アドバイスや応援をしてくれる人で、超重要な役割だ。

 

僕もゆっきーの1回戦のベンチコーチに入りたかったのだが、

確かスタンバイの時間が微妙に重なって入れないスケジュールになっていた。

 

僕はゆっきーの1回戦のベンチコーチに入れないことを申し訳なく思いながらも、

自分の1回戦のベンチコーチをゆっきーにお願いした。

 

その時のことである。

以下はLINEでのやり取りについてである。

 

僕はゆっきーにこう言った。

「ゆっきー、1回戦のベンチコーチ、入ってくれないかな。俺はゆっきーの1回戦のベンチコーチは入れないけど、もし万が一、俺が1回戦で負けちゃったら、ゆっきーの2回戦のベンチコーチには入るよ」

と。

 

するとゆっきーはこう言った。

「中野さんのベンチコーチは入ります。でも、僕のベンチコーチには入らないでください」

と。

 

なんと。

 

解雇通告である。

 

いや、そういうわけではない。

 

僕にはゆっきーの考えていることがわかった。

 

負けた先の予定なんて、試合前から考えるな、とゆっきーは言っているのである。

 

が、

僕だってゆっきーを応援したいのだ。

何を隠そう、僕は無類のベンチコーチ好きである。

なんなら自分が試合をするよりも好きかもしれない。

以前は、自分は試合に出ないのに、ベンチコーチをするためだけに岡山まで行ったくらいだ。

 

だから、本当はゆっきーの応援をしたい、というのが本音なのだ。

日頃の感謝だってある。

 

だから軽く食い下がった。

「いや、やる前から負けたあとのこと考えるなっていうのはわかるよ。だけど、あくまで万が一の話だよ。もし1回戦で負けちゃったら、ゆっきーのベンチに入るよってことだよ」

 

するとしばらく返事がなく。

 

「中野さん、2回戦のベンチコーチ、たった今Y井さんに頼んだので、中野さん入れないです」

 

なんと。

 

大失恋である。

 

それに続けてこうきた。

 

「中野さん。全国大会に出て1回戦で負けたら、それは全国大会に出てないのと同じですから」

と。

 

僕は素直に思った。

 

「まじか、、、」

 

「1回戦負けすると、全国大会に出てないのと同じなのか、、、」

 

と。

 

いや、今この文章を書きながら冷静になって考えてみたら、そんなわけはないのである。

 

だって、トーナメントなんだから、1回戦で半分くらいは負けるのである。

そのみんなが全国大会に出てないことになるなんて、そんなことはないはずだ。

 

が、ゆっきーは僕の性格をよく見抜いている。

中野は、適度にバカであると。

こういうことは素直に聞いちゃうタイプであると。

かわいいのだと。

 

「中野さん、まじでベンチとかどうでもいいので、とにかく1回戦勝ってください」

 

かくして僕は、

ゆっきーのベンチに入るということを一切考えることなく当日を迎えることになった。

 

東京選手権当日。東京体育館。夢の舞台である。

 

1回戦。

相手は岩手の代表。

僕のベンチコーチにはゆっきー。

 

ゆっきーはベンチから声を出しまくってくれる。

 

「中野さん!あしあし!足動かして!」

「中野さん!カモンカモン!」

 

そう、ゆっきーと言えば「カモン!」なのである。

 

とにかく自分を鼓舞する時に「カモン!」と叫ぶのがゆっきーという漢だ。

 

そのカモンを僕にも浴びせてくれたのだ。

中野家の家紋は「丸に違い鷹の羽」である。

 

カモンカモンカモン!

 

それだけではない。

ゆっきーは僕の初の全国大会の舞台で伝家の宝刀を抜いたのだ。

 

カモンレモンカモン!!

 

「ん?レモン?」

 

よくわからないけど、元気をもらえた。

おそらくクエン酸である。

 

1回戦は激戦になった。

激戦の末、3-2で勝利することができた。

 

僕は初の全国大会で1回戦を勝利することができたのである。

これでやっと、全国大会に出場できたことになった。

 

勝利を決め、ベンチのゆっきーに駆け寄った僕の第一声。

「こわかったーーーーー」

 

そりゃそうである。

こっちは全国大会に出ていなかったことになるところだったのだから。

 

ゆっきーから勇気をもらって、1回戦を勝つことができた僕は、

全国優勝経験のある超強豪選手との2回戦で、0-3であっけなく散った。

 

散ったが、楽しかった。

東京体育館のど真ん中のコートで、

注目があつまる超強豪選手と、ド派手なラリーを繰り広げることができたのだ。

 

そんな夢のような2回戦を経験することができたのも、

「僕のベンチには入らないでください」

と言ってくれたゆっきーのおかげなのだ。

 

ゆっきーも僕も、

「今が一番強い」

を自称している。

 

つよつよのつよである。

 

僕たちはもっと強くなれる。

だって、バキ練してるから。

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