【こ】コイポクシュオシラルンベの話

あなたはコイポクシュオシラルンベを知っているだろうか?

 

「なんだそれは」

「食べ物か?」

「人の名前か?」

「虫か何かの学名か?」

 

おそらくコイポクシュオシラルンベを知っている人はほとんどいないだろう。

 

何を隠そう、僕自身もコイポクシュオシラルンベを知ったのはつい最近のことだ。

 

1ヶ月くらい前だろうか。

 

ある調べ物をしていた時に、

たまたまコイポクシュオシラルンベのことを知ってしまったのだ。

 

「コイポクシュオシラルンベ、だと?」

「妖怪か何かか?」

「ケセランパサランみたいなものか?」

 

そんな憶測が逡巡することと思う。

 

そしてさらにやっかいなことに、

コイポクシュオシラルンベについて調べていったところ、

コイポクシュオシラルンベとは別に、

コイポクオシラルンベがあることがわかった。

 

「何が違うんだ」

 

コイポク「シュ」オシラルンベ

コイポクオシラルンベ

の違いだ。

 

もういい加減わけがわからなくなってきたと思う。

 

「いいからそれはなんなのかを早く教えてくれ」

そんな声が聞こえてきそうだ。

 

そして僕としても、

もっとこの話を引き延ばしたいと思ってはいるのだけど、

もう引き延ばせるようなネタもないのだ。

 

だから、ネタバレをしてしまおうと思うのだが、

コイポクシュオシラルンベは、

なんと、

日本の地名だ。

 

というより、住所だ。

 

北海道広尾郡広尾町コイポクシュオシラルンベ

というのがその正式な住所だ。

 

それはいったいどこにあるのか。

 

北海道は知っていると思う。

 

北海道の中にある広尾町はえりも町の東にある。

 

えりも町は、北海道をひし形にしてみたときの南の角、というとわかりやすいと思う。

その東にあるのが広尾町だ。

 

えりも町から海沿いにずっと北上していくと広尾町の中心街があるのだが、

そこまでいく途中に音調津(おしらべつ)というちょっとした集落がある。

 

そこには音調津川という川があるのだが、

その川を南西に辿っていくと、

コイポクオシラルンベという地名がある。

 

そして、そこまでは道があるのだが、

そこからは道が途絶えている。

 

googleのストリートビューでも、そこから先には進めなくなっている。

 

その道のない進めなくなった先に、

コイポクシュオシラルンベという住所が存在しているのだ。

 

これを発見した時は驚いた。

 

何が驚いたって、

航空写真で見ても、ただただ森が広がっているだけで、

全く道がないのだ。

 

過去道があって、今は道がないところだったとしても、

少しはその形跡が残っているものだと思うのだが、

そういったものが何一つない。

 

ならば、

なぜそんなところに住所が定められているのか。

 

住所だけではない。

 

そもそもなぜ、

そんなところに地名があるのか。

 

土地に地名をつけるのは人間だけだ。

 

そして、

その土地のことをなんらかの名前で呼ぶということは、

それなりの「そう呼びたい意図」があるはずだ。

 

だか、

そこには辿り着くべき道がないのだ。

そんな誰も辿りつかないようなところに、

コイポクシュオシラルンベなんていうたいそうな名前をつけていることに、

僕は非常に興味を持ち、魅入られ、

それから数日間は、暇さえあればコイポクシュオシラルンベについて調べていた。

 

日本郵政で調べても、

やはりきちんと住所しとて、字(あざ)として、定められているのだ。

 

郵便物は届くのだろうか。

いや、道もないし、建物もないのだから、

届けようがないだろう。

 

ではなぜ住所があるのか。

謎は深まるばかりである。

 

 

もっと北上して釧路の方に行くと、

知らなかったらまず読めない地名が連発する。

 

たとえば、

冬窓床(ぶいま)

入境学(にこまない)

重蘭窮(ちぷらんけうし)

などだ。

 

これらは、

おそらく元々あったアイヌ語の地名に漢字を当てたもので、

なんでそんな字が当てられたのか、よくわからない地名たちだ。

 

だが、

コイポクシュオシラルンベはわけが違う。

 

そもそも漢字を当てられなかったのだ。

 

なぜ漢字を当てられなかったのだろうか。

 

住所として漢字を当てるまでもなかったから?

 

ではなぜ住所として欠落せずに残っているのか。

 

謎は深まるばかりである。

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