目が悪い。
すこぶる悪い。
いわゆるど近眼というやつで。
子どもの頃から何度となく言われてきたのが、
「近視性乱視」
という言葉。
子どもながらに、
なんだそりゃ、とは思ってた。
「君の目は、こういう見え方をしてるんだよ」
なんてことを説明されたりするのだけど、
そもそも自分の目でしか世界を見たことがないのだから、
そんなこと言われたって、
「はぁ」
としか言えない。
子どもの頃によく通っていた眼科で、
「近視性乱視」
という言葉を連呼されたのだけど、
そこで僕はずっと目薬をもらっていた。
確かに種類あって、
水っぽいものと油っぽいもの。
これの順番を間違えると大変で、
先に油っぽい目薬を刺してしまうと、
水っぽい目薬を全部弾いてしまって全く吸収されない。
というか、
目薬に近視性乱視を治す力が本当にあったのだろうか。
実際、
目薬で僕の視力が向上することはなく、
視力は悪化の一途を辿ったのだが、
それでも目薬生活はしばらく続いた。
というのも、
そこの先生がとても優しいのだ。
女性の先生だったのだが、
「がんばろうね」
「メガネしないでも見えるようになるから」
「きっと目薬で良くなるからね」
「メガネはかけたくないものね」
と、一生懸命僕がメガネをかけなくても日常生活を送れるように、
はげまし、検査し、目薬を処方し。
親身になって治療をしてくれた。
だけど、
この頃から僕は、
「大人に対しての気の使い方というのはなんとも難しいものだ」
と考えるようになる。
それはなぜか。
僕はこの先生に対しても、うちの親に対しても、一度たりとも、
「メガネをかけたくない」
なんてことは言っていないのである。
にもかかわらず先生は、
「メガネかけたくないもんね、がんばろうね」
の一点張り。
言えないのである。
「こちとら、見えなくて困っとんじゃ!さっさとメガネかけさせーや!」
毎回、喉の奥にそんな言葉が出たり引っ込んだりする。
気づけば僕の目は、
ランドルト環の一番上のCすら判別できなくなってしまっていた。
小学校では一番前の席に座っても、黒板の字が読めない。
たまりかねて母に相談し、
母も「あの眼科に行ってると解決しない」と気づいたらしく、
別の眼科に行くことになった。
これが後世に脈々と語り継がれることとなる、
世界初のセカンドオピニオン誕生の瞬間である。
新たな眼科に赴き、
各種検査をされ、
即座に処方されたのは、、、
ぱんぱかぱーーーーーん!!!
「めーがーねーーー」
繰り返すが、
僕はメガネをかけたくないなんて一言も言ったことがないのである。
もう、大感謝である。
だって、目が見えるのだから。
黒板が見えるのだから。
教科書が読めるのだから。
この頃すでに僕の視力は0.1を下回っていた。
そんな調子で小学校の後半と中学校の3年間は、
ずっとメガネで過ごすことになる。
そして高校に入学(やがて退学するが)。
推薦で入った卓球部を半年で辞め、
さて、これからどうしていこうかと考えていた頃、
ふと気づいたことがある。
メガネをかけると、目が小さくなる。
そうなのである。
いわゆるど近眼用のメガネなので、
メガネをかけてる時とかけてない時で、
見た目の目のサイズ感が全く変わってしまうのである。
(これは、高級なメガネだったらそんなことなかったのかもしれない)
そんなこんなで、
僕は「メガネをかけたくない」と思うようになったのだ。
もしかしたら、あの時の眼科の先生は、
僕がこうなることを見越していたのかもしれない。
いや、断じてそれはないだろうが。
その頃から僕はコンタクトレンズで生活するようになる。
最初のコンタクトは使い捨てではないタイプのソフトコンタクト。
なんか、煮沸したり、消毒したりと、色々面倒だった。
そして、2回ほど落としたり無くしたりして、
使い捨てのコンタクトがあるということを知り、
性格的にそっちの方が合ってるだろうと思ってからは、
もうずっと使い捨てコンタクトの生活だ。
裸眼の視力は0.04くらいまで下がってしまったが、
コンタクト生活で何か不自由をしたことというのは特にない。
ないのだが、
唯一あるとしたら「卓球をしている時の乾き」だ。
ラリーが長引くと、まばたきを忘れる。
そうなると、ラリー中にだんだん乾いてきて、
コンタクトが眼球に貼り付いてくるのだ。
これがなかなかに不快。
なのでつい先日、コンタクトを買いに行った時にそれを相談した。
すると「こちらのタイプの方が乾きにくいので、試してみますか?」と、
今までのと違うものをお勧めしてもらえた。
値段的にも大して変わらなかったので試させてもらうことに。
どこの眼科でもそうなのかはわからないが、
僕が行っているコンタクト屋さんと眼科では、
コンタクトの種類を変えるためには、
新たに検査をして、試着をして、処方箋を出してもらわなくてはいけない。
眼科の部屋の中で、
その新たなコンタクトを試着する。
特に違和感はないし、よく見える。
うん、これで良さそうだ。
若い女医の先生が近づいてきて、
僕にこう言った。
「そのコンタクト、ちょっと外しずらい場合があるので、外すのも試してもらっていいですか?」
もちろん僕はそれに従った。
以前のものと比べると多少貼り付く感じはあるものの、
そんなに苦労することもなく外すことができた。
「あ、はい、外せました。大丈夫だと思います」
と報告。
すると先生。
「わーー!本当ですか!?外せました!?よかったーーーーー!!!!!!」
先生。
一体僕の目に、
何を入れたというのですか。
まったく、目が悪いといろんなことがある。
そして、何かと女医さんに縁がある。
チャレンジ女医。