続きをね、楽しみにしているというお声があったので、書かないわけにいかないんですよね。
何がって「【お】沖縄の話」のつづきの「き」の話です。
僕がよく一人合宿をしていた頃。
AirBnBで安宿を探しては日本各地、いろんなところに出かけていました。
ある時、そんなノリで沖縄に行ったのですが。
僕は宜野湾とよく似たその名前の村は、
間違いなく宜野湾の隣とかにあると思い込んでいたんです。
ナビに住所を入れて向かいはじめて、
到着予想時間がやたら遅かった時にも、
「まあ、沖縄のカーナビってこんな感じなのかな」
「那覇周辺は渋滞もすごいしな」
くらいにしか思ってなかったんです。
だけど、宜野湾市は普通に通過して、
いけどもいけどもなかなか目的地には辿り着けない。
僕が向かっていた場所。
それは「宜野座村」
後から知ったのですが、阪神がキャンプをやるので有名な場所らしいです。
ほとんど街灯もないようなその道を、
車で一人ひた走る。
今ふと思い出したのですが、
その時僕はラジオをつけていたんです。
なんとなく、一人だと寂しいので。
特にチャンネルも合わせることなく、特にラジオをきちんと聞くでもなく、
寂しさ紛れに人の声が入ってればそれでいいや、くらいの感じで。
そしたら車が暗い街灯のない道に差し掛かった時にちょうど始まったのが、
動物系のドキュメンタリー番組で。
なんと、牛の出産の様子をラジオで流し始めたんです。
「むぉおおおおおおおぉおおおおぉおぉおおおおおおおお!!!!!」
ラジオから流れる牛の大きな声。
ほんと、心臓が止まるかと思いました。
そうこうしているうちにたどり着いたAirBnBは、
なんと蔦が絡まる廃ペンション。
階段を3階まで登り、キーボックスを開け、鍵を開け、
中に入ると一応電気はつく。
和室があり、LDK的な洋間があり、さらに寝室もある。
一人で泊まるにはちょっと広すぎるような場所でした。
テレビは一応つくけど、ちょくちょく電波が途切れてかえって怖い。
携帯もあまり電波が入らない。
持っていったモバイルWi-Fiもほとんど電波が入らない。
極め付けは、
備え付けのモバイルWi-Fiですら、ほとんど電波が入らないこと。
こ、これは、まいった。
もう寝るしかない、と思い、一応綺麗に整えられた寝室で音楽をかけながら眠りました。
なぜこんなところ、3泊も予約してしまったのか。
僕の旅は後悔から始まったのでした。
翌朝目が覚めて、僕はとんでもないことに気づきました。
電波が途切れ途切れのテレビが置いてある和室。
その和室の方が妙に明るい。
なんだろう、と思いその和室のカーテンを開けると、
なんと、目の前がスーパーオーシャンビューでした。
す!すげーーー!!!
確か僕はその時1泊5000円くらいでそこを利用したのですが、
もうその朝の感動だけで十分に元が取れました。
綺麗な青い海。遠くまで見渡せました。
夜は怖いけど、昼間はこんなに綺麗な海が見られるのか。
僕はその宿を一気に気に入りました。
こうなったらもうリピートしたいと思い、
その周りのことをよく知らなくてはいけないと、探検に出ました。
探検に出て最初に気づいたこと。
周辺に、お店がない。
コンビニもなければ、飲食店も見当たらない。
一応ペンションとして営業してるっぽいところはあるけど、
でもそこに飛び込みで行って食事を食べられるとも思えないし。
これはどうしたものかと思い、調べ物をしようにも、
その建物内にいると電波もない。
なので、電波が安定し、かつ車を安全に止められそうな場所を探して、
そこでネット調査。
まずコンビニが、隣の金武町までいったところにあるローソンが一番近いっぽいので、
そこに向かい、漫画雑誌とか、沖縄ローソンならではのスパムおにぎりやら何やらを購入。
前日の夜から何も食べていなかったので、とりあえずこれで飢えはしのげると安心。
だけど、せっかくの沖縄。
何か沖縄っぽい飲食店はないものかと探すと、なんとその宿の近くにあるペンションが夜は居酒屋になっているということが判明。
また車じゃないと行きづらいけど、少し離れたところにも沖縄料理が食べられる居酒屋がある、ということがわかりました。
僕はまず、宿の近くのペンションの居酒屋さん「てんぷす」に向かってみました。
店員さんはいるものの、確認してみると残念ながら定休日。
「明日またきます」と伝えててんぷすを立ち去りました。
そして、もう一軒の車じゃないといけない居酒屋さん。
お店の名前はちょっと忘れてしまいました。
車で行ったから当然飲めないのですが、
お店に入ると労働者風の男たちが、めちゃくちゃ楽しそうにオリオンビールを飲んでいました。
いや、これは羨ましい。けど、我慢だ。
その時は確かじゅーしーを食べました。
じゅーしーっていうのは雑炊のことで、
くふぁじゅーしーとぼろぼろじゅーしーの二種類がありました。
くふぁは硬いという意味で、いわゆる雑炊っぽいもの。
ぼろぼろはその名の通りもうちょっと水っけがあるタイプ。
そうそう、確かイカ墨のくふぁじゅーしーをいただいた気がします。
他にも何か食べたとは思うのですが、
もうとにかく周りでオリオンビールを飲んでるのが羨ましくて、
ある程度お腹を満たしてお店を飛び出し、金武町のローソンに行き、
すごい量のオリオンビールを買い込んで、その日は宿でしこたまオリオンビールを飲んで眠ったのでした。
翌日。
とりあえず食べ物や飲食店は確保したので、今度は自然を冒険してみようと思い、
その宿の目の前にある海に行ってみました。
綺麗な砂浜、という感じではないのですが、海そのものは綺麗で。
また、ヤドカリがめちゃくちゃたくさんいました。
なので僕はヤドカリ観察をしばらく楽しんだりしていました。
崖を登っていくヤドカリに近づいていくと、
驚いたヤドカリが腕を引っ込めるんです。
当然崖から転がり落ちる。
「あ、ごめん」
みたいなことをやってました。
宿の反対がわの海にも行ってみようと思い、道を探して徒歩で突入。
そちらは割と綺麗な砂浜になっていて、人もいなくて、
なんだか寂しいような、でも壮大な冒険を始めたような、
そんな心持ちで僕は歩き始めたのでした。
ですが、しばらく歩いてから気がついたのです。
「帰り道がわからない」
これはつまり、もうほとんど遭難です。
こりゃ、まいったな。
葉っぱをかき分けてけもの道みたいなところから入ってきてしまったので、
どこからそこに戻れるのかがわからない。
いや困った。
と、遠くの方で人の声がした気がしました。
そちらの方に少し歩いてみると、
遠くにウエディングドレスを着た花嫁さんがいました。
たぶん、結婚式の撮影か何かをやってたんですね。
ってことは、そっちの方に行けば、何かしらそういう施設があるんじゃないか、と思い、
砂に足を取られながらそちらに向かってみると、案の定それっぽい施設がありました。
花嫁さんと花婿さん。
そして写真を撮る人やスタッフさん。
邪魔にならないように、あまり近寄らないように300メートルくらい離れたところから陸に向かって歩いていたのですが、
そりゃーまー目立ちますよね。
「なんだあの人」みたいな目で見られました。
が、無事人間用の道に辿り着くことができ、
そこから歩いて30分くらいで宿に戻ることができました。
夜は、前日行けなかった「てんぷす」に行きました。
ここはもう、僕にとって一生物の沖縄のお店になる、そんなお店です。
金城さんという店主さんがいて、超沖縄の人って感じの方。
じゃがめんというじゃがいもで作った麺が宜野座の特産品で、
それを使ったサラダを作ってもらって食べたり、
てびちを唐揚げにしたものをいただいたり、
とにかくお腹がいっぱいになるまで食べて、
お酒もたくさん飲みました。
その後も沖縄にはしょっちゅう行っているのですが、
リアルにそのお店が沖縄のお店で一番美味しいんじゃないか、
って思ってます。
てんぷすでしこたま食べて飲んで、超ご機嫌でお店を出て見上げた空には綺麗な星がたくさんありました。
そして宿に戻り、就寝。
もう、怖いとか思わず、慣れてくると快適なもんだな、なんて思っていました。
翌朝最終日。
また朝から海を眺め、海を見ながら読書をしたり、ヤドカリを観察したり。
てんぷすの金城さんの言葉を思い出したりしていました。
金城さんは、
「宜野座は、何もないっていうのがいいところなんです」
と。
そうか。
何もないところって、あんまりないな。
この、何もないっていうのは、じつはものすごい贅沢なことなんだな。
そんなことを教えてもらい、
僕はその謎の廃ペンションを、それからも何度か利用し、
その度にてんぷすにも通い、ヤドカリを観察し、
という、ちょっと独特な沖縄の楽しみ方を続けているのでした。
子どもが産まれてからはさすがに廃ペンションに泊まるわけにもいかず、
宜野座も車で通過するくらいになってしまったのですが、
それでもまた、宜野座に泊まって、今度は親子でてんぷすに行けたら、
と考えたりしています。