【を】「を」の話

さて困った。

 

五十音順でタイトルをつけてエッセイを書いていく、というルールを決めた時には気づいていなかった。

 

最後に「を」と「ん」が控えているではないか。

 

「ん」なんていうのは何とかなりそうだ。

 

「んもーの話」とか。

こう、なんというか、口語で誤魔化せていけそうである。

 

が、

「を」はどうだろう。

 

これって「を」という言葉の性質上、非常に難しい気がする。

 

そもそも古語以外で「を」から始まる言葉なんていうものを僕は知らない。

 

たとえば「をかし」とかだったらいけるんだろう。

が、それはなんか違う気がするし、面白くない。

をかしでない。

 

そもそも「を」という文字は、なんだか特殊な役割を持っている気がする。

ちょっと調べてみる。

 

現代仮名遣いでは、「を」を用いるのは格助詞の「を」、およびそれを含む複合語の「をば」「をや」「をも」「てにをは」などや、成句の「~せざるを得ない」「やむを得ない」など少数の語に限られる。

 

うん、確かにそうだ。

格助詞、なんていう言葉は初めて知ったけど、多分助さん格さんみたいなことだと思う。

 

ああ、広がらない。

広がらないよ。「を」は。

 

さてどうしたものかと考えていると、

ふと思い出したことがある。

 

知ってる人は知ってるし、知らない人は知らない話だが、

僕が最後に勤めていた会社というのは、ある日突然消滅をした。

 

その消滅奇譚についてはまた日を改めて書くかもしれないし、

もう書いたのかもしれないし、

その記憶すら定かでないくらい、もうすでに僕の中ではどうでもいい話になっているのだけど、

その時の社長というのが僕と同い年で今でも友だちだ。

 

そいつが、

なんというか、かっこいい日本語をいろいろ知っているやつだった。

 

そのかっこいい日本語の中で僕がよく覚えているのが、

「重い『を』」という表現だ。

 

どういうことか。

 

たとえば会話の中で「お」と言われた時に、

それが「お」のことなのか「を」のことなのか、

わからない場面があったりする。

 

それを「お」だとか「を」だとかどんなに口頭で言われても分からないだろう。

 

そんな時にあいつは、

「重たい方の『を』」という表現を使っていたのだ。

 

これが僕としては非常に斬新でカッコよかった。

 

「お」と「を」は重さが違うというのだ。

「お」の方が軽く、

「を」の方が重いのだ。

 

どういうロジックでそうなるのかは分からない。

 

でも「重い方の『を』」と口頭で言われると、

なんとなく「お」ではなく「を」が想起される。

これはとても不思議だ。

 

現代となっては「お」と「を」は同じ発音なので、

このように説明が必要になるシチュエーションというのは確かにある。

 

そういう時に「重たい『を』」みたいな表現があるというのはたすかに便利だ。

 

重さ以外にこういう言い分けの表現方法というのはあるのか、と思い調べてみた。

 

すると、確かにあるのだ。

  • わ行の『を』
  • つなぎの『を』
  • わをんの『を』
  • 下の『を』
  • 小さい『を』
  • 難しい方の『を』
  • 重たい『を』
  • くっつき(助詞)の『を』
  • かぎの『を』
  • 腰曲がりの『を』

こんなにもいろんな表現がある。

 

「ああ、確かにそうだよね」と即座に理解できるものもあれば、

「ん?」となるものもある。

 

わ行の「を」

わをんの「を」

なんかはパッとすぐにわかる。

 

また、

腰曲がりの「を」

なんていう表現は非常に趣きがある。

確かに「を」は腰が曲がっているように見える。

 

では「お」はなんだろう。

「体育座りで壁に寄りかかって読書中の『お』」だろうか。

長いので却下だ。

 

つなぎの「を」とか

くっつきの「を」なんていうのは、

助詞と書いてある通り、役割を示す表現だ。

 

難しい方の「を」っていうのも、

なんというか投げっぱなしな表現でおもしろい。

「簡単な方の『お』」とか言われたら、

「『お』だって『あ』と紛らわしてくてそこそこ難しいぞ」

なんていう反発が生まれそうだ。

 

だから

「難しい方の『を』」と、

「そこまで難しくない方の『お』」くらいにしてあげた方が、

トラブルの原因にならなくて良いだろう。

 

さて残るは、

下の「を」

小さい「を」

重たい「を」

かぎの「を」

だ。

 

かぎの「を」については、

多分腰曲がりの「を」みたいに、

見た目の表現だと思う。

 

さてさて困ったぞ。

 

まず、

「下の『を』」ってなんだ。

五十音順で最後の方にくるからか?

 

どうもこれには地域性があるらしい。

下の「を」という言い方をするのは、

新潟とか北海道とか、ちょっと北の方のようだ。

 

少し調べてみたが、

なぜ「下の」と言うのかはついぞ分からなかった。

 

さて、

「小さい『を』」

これも全然意味不明だ。

 

「お」と比べて「を」は小さい、とでも言いたいのだろうか。

小さくないだろ。

全然小さくない。

 

これは調べてみたら富山の方で言う表現らしい。

友だちの奥さんが富山出身なので、ちょっと聞いてみようと思う。

 

そしてくだんの「重たい『を』」だ。

 

まず、この表現を僕に披露した彼は、

北海道出身だ。

 

となると、それは下の「を」ではないのか。

 

それはさておき。

 

なぜ「重たい」のかということについては、

調べてみたらそれなりに納得のいく答えがあった。

 

それは、

という説明だ。

 

つまり「私を」なんて書く時には、

上に乗っかっている私は重たい、ということになる。

 

あれ、ちょっと待てよ。

それじゃおかしいじゃないか。

 

その場合、

重たいのは「を」じゃなくて「私」だ。

だって「重たい私」を下支えしている「を」なのだから。

 

ああ、そうか。

 

そうやって下支えしているから

「下の『を』」なのか。

 

そして。そうやって下支えを続けた結果、

潰されて小さくなっていったのか。

 

だから「小さい『を』」なのか。

 

をまえ、苦労してんだな。

 

このエッセイ書きながら、

何回も何回も「うぃ」って書いちゃってごめんな。

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